|
癌を克服して、世界一の自転車レースに勝ち続ける男の2作目。
1冊目の「ただマイヨ・ジョーヌのためだけでなく」は、癌になった彼がいかにして闘病生活を過ごし、癌を克服してロードレーサーに復帰し、ツール・ド・フランスに勝つことができたかを綴ったものだが、この2冊目に当たるこの本は、2度目の優勝となる2000年から2003年まで4回分(つまり2連覇から5連覇まで)のツール・ド・フランスのことが書いてある。これまで語られることのなかったレースに関するさまざまな裏話は、ツールファンなら読んで損はないだろう。当時では語ることのできなかったようなレースでの駆け引きや戦略はなかなか読み応えがあるし、外からではわからなかった彼のいっぱいいっぱいな状況などを知ることができて面白いのだ。
レースと戦いながら、癌撲滅に尽力するさまには脱帽。
レースを戦うチャンピオンというものは、みんなに協力してもらってチームプレイをしていても、孤独であることには変わりはない。この書物からも、彼の孤独な状況がけっこう読み取れたりすることができる。どんなものをも寄せつけない厳しさがレースには必要であるのだろうけど、一転、それが癌のことになると彼は自分の殻に閉じこもらずに積極的に出てくるのだ。たとえば、ツールのステージレースのゴール後に尋ねてきた癌患者やその家族には積極的に相談に乗ろうとするし、知人の兄弟のために時間を割いて知りうる限りの癌専門医を紹介したりする。ツールのチャンピオンである前に癌患者として振る舞うことの方が、彼にはプライオリティーがあるようだ。
6連覇はするべくしてするだけの努力があったから。
ランス・アームストロングはツールだけにしか走らないから、とよく揶揄されたりするが彼は、癌を克服した時に「世界一の自転車レースで返り咲いてみせる」がそのモチベーションになった。だから、こそ彼は、毎年ツール・ド・フランスに全力投球することで、自分が生きているということの証明をして見せたかったのだろう。だからこの本の中でも、調整のためのレースや仲間を勝たせるためのレース参加についての話は出てくるが、レースの話といえばそのほとんどがツール・ド・フランスである。オフの間にも彼はとにかくよく練習をする。ツールのコースは毎年年末には発表されているが、彼は冬の間からもう本コースの下見を兼ねてトレーニングをしている。「何年も冬場から本コースでトレーニングを始めるが、まだ誰にもツールの選手にあったことがない」という主旨の発言をしているのを見ても、彼がいかに用意周到に努力をしているかがわかった。どの坂でアタックをかけて、どのステージで勝負をかけるか、それらのほとんどを彼はシミュレーションしながらレースに備えるのである。20日以上もかけてフランス全土を一周するというような大がかりなレースなのに、彼はF1マシンがコースセッティングを決めるような綿密な計画を何日もかけて立てていくのである。その努力たるや本当に驚くべきものであるが、そこまですれば6連覇するのも当然だと納得させられてしまう。(もちろんだけでもできるものではないが)
そして、離婚。
現在彼は、有名なシンガーソングライターのシェリル・クロウと一緒にいるが、ツールに始めて勝った頃から5連覇までは、クリスティン・リチャードと結婚していた。当然この本は、その結婚生活についてもたくさんのことが書かれているが、何故か離婚することが予見できるようなところがある。というのも、奥さんは敬虔なクリスチャンで熱心にランスに信心するように勧めたりするが、もともとランス・アームストロングという人間は1作目を読んでいても、またレースへの取り組みを見ていてもわかるが、きわめて合理的で科学的な人間で、宗教というものにはまったく興味がないタイプの人間なのである。彼の癌になったことを宗教と関連づけて語ろうという人に対しては、嫌悪感をむき出しで対応している。
もちろん、儀礼的な集会などには差し障りのないように行くようだ。それはちょうど彼の同郷(テキサス州オースチン)の大統領であるジョージ・ブッシュが票のために中絶反対とキリスト教信者を騙したのと同じようなものであるのだが、彼の場合は奥さんの体面上振る舞っているようであった。こんな状態では、やっぱり離婚は同然のことだったのだろう、と思えてくる。
この本は、1冊目の「ただマイヨ・ジョーヌのためだけでなく」に比べると、生死のドラマがないので物足りないような所があるかもしれないが、逆に人間ランス・アームストロングがよく見えるという点では一読する価値のある本ではあると思う。あなたがランス・アームストロングの熱心なファンであるのなら。
|